少年2015年06月27日 07:28

うなじの細い青年だった。声も高く、まだ「少年」と言っていい位。
ただ、バスに乗るとき、真っ先に
「☆☆町の『○○建設』に就職の面接に行くんだ、時間までに着くか?」
と運転手に聞いた。
中学校は出ているのだろう。
しかし一番前の席、彼の挙動は落ち着きがない。
絶えず手首をフラフラさせたり、頭をユラユラさせたりしている。
「面接がそんなプレッシャーなのだろうか?」
しかし落ち着かない。

☆☆町が近くなると、彼はしきりに運転手に
「○○建設はどこだ」と繰り返し聴くようになった。
バス停すぐである。
「来た道をちょっと戻って、信号渡って、十字路を左に折れる、そこのビル」
と何度聞いても覚えられないようで、質問を繰り返す。
バス席の中に奇妙な緊張感が漂った。
☆☆町のバス停。
彼はもう一度道順を聞いて、両替してバス賃を払った。
10円玉が1枚後ろに転げた。
ひどくあぶなげな態度で彼はコインを追いかけ拾った。
立ち上がった彼の、開いた口元。
歯が乱杭であちこち黒く溶けている。

ああ、末期シンナー中毒。

バス全体に、声にもならぬ低いうなりが走った。
彼はたぶん採用されないだろう。
というか、もと来た道をたどれるのか?
面接の口をきいてくれた人が入るのだ、たぶん親は健在だろう。
しかし、脳をとろかすほどの薬物依存者に就く職はない。

どこからシンナーの誘いを受けたのだろう。
どうして、こうなるまで放っておかれたのだろう。
少年(青年)の来し方行く末を想い、ため息をついた。

もう15年も昔のことだが、
彼が今幸せでいるか、
ふ、と
思い出すときがある。

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