「良いお年を」と言えるコツ2022年12月13日 17:01

今年最後の病院の日で1年の総めくりをして薬局への細い裏道を歩いていた。ら、難儀をしているお婆さんと出会った。
 年はたぶん80~85。細くて小柄で、杖こそないが足元がつらそう。が、重そうな段ボールを必死に両手で持っていて、転んだりしたら手もつけないでケガすること確実である。で
「お手伝いしましょう」
と杖と反対の空いている手で段ボールの底を支えた。
「夫が車で迎えに来るところ、すぐですのでいいです。すみません」
確かにそれらしい車はあと15メートルくらい、でも前に配送車が止まっちゃってるんでちょっと時間かかるみたい。フタのしていない段ボールの中味は、ちらっと見たらリンゴとジャガイモと玉ねぎとお餅で、確実に重たい。すみませんすみませんとしきりに謝るが、高齢者のサポートの場合
「してあげましょう」「すみません」
では相手の心にいらん負担をかけてしまうんで
「させてください」「ありがとう」
と気持ちよく受けてもらわなければいけない。
すぐそこで運転席にいる夫の方はと見ると、目の前の配送車にハンドル握ってイライラしているらしく、こっちに視線回して、ドア開けて重い段ボールの荷物受け取りに来る、とっさの機転が効かないみたい(おじいさんにはありがちである)。細いとはいえ人通りのある道で、ふたりで動くと危ないんで
「ダンナさまがここへ来るまでの間ここで支えさせてくださいね」
と立って待つことにした。
「すみません、すみません」
とひたすら恐縮モードなんで、方向変えなきゃ、ということで
「気ぜわしい季節になって買い物も大変ですよね。コロナだ物価高だで大変ですけれど、でもお正月は来るんですねえ」
と笑いかけてめでたい方に持っていったら、やっとお婆さんのモードも変わった。ニッコリして
「本当ですねえ、もうすぐお正月なんですね」
「車で迎えに来てくれるなんて素敵なダンナさまですね」
と答えたら、こっちに耳寄せて小声で
「とんでもない、わがままで身勝手、私の事なんてなんにも分かっちゃくれません」
「ああ分かります、男の人ってそういうトコあります、ウチもそうですよ。でも、なにかいいところもおありでしょう?」
「いいえいいえ、いいトコなんてひとつもあるもんですか」
そのとき目の前で車が止まって、渋い顔した、明らかに待たされて不機嫌なおじいさんが降りてきた。こりゃいかん。
「ああ、頼もしいご主人様の登場ですね、お待ちしてましたよ!」
ととびっきりの笑顔を向けたら、おじいさん急にご機嫌になってニコニコ顔で荷物受け取って、トランクに積みにいっちゃった。
私の場合、仕事の性質上クライアント高齢者男性と沢山会った。難しい性格の義父とのつきあいで「しゅうととヨメの良好な関係」を維持することで、はっきりいって「大学院修了」レベルだと思う。明治生まれの養母の介護というのもあって高齢女性とのつきあいも多かった。心ほどくには「男は立てる・女は気持ちよくなってもらう」のが、まず一番の基本である。
お婆さんの耳元で
「ダンナさまのいいところお正月までにひとつ見つけてくださいね」
とささやいたら、私の腕を取って
「あなたのようないい人に会えて今日は本当に良かった。ありがとうございます。良いお年をお迎えください」
と笑顔で言ってくれた。
「私もお会いできてよかったです。ありがとうございます。良いお年を」
と、笑顔で別れる事が出来た。

日本の人間関係というのは、どんなに難しい状況設定でも、互いに
「会えてよかった、ありがとう」
と、めでためでたしで別れるのが一番である。

ましてや年の瀬の場合、絶対である。