2011年11月25日 22:19

実家に、濃いニス塗りの古ぼけた机がある。
よく言えばアンティークだが、祖父の手作りなので無骨でもある。
祖母が身ごもった時に祖父が作り、成長して父が使い、兄が使い、兄が独立してまた父が使い、いまは母が使っている。これを、今回の引っ越しの時にもらうことにした。81年物である。

この机にはひとつの秘密がある。

戦前、「平和主義者」で「労働組合活動家」として特高警察にマークされていた祖父母が、自分たちがいつ捕まってもいいように、引き出しを全部抜いた裏板に「詩」を書いたのだ。
机を継いだ者だけがそれを読める。

母が、懐中電灯で照らして、書き写してくれた。

最初の1行だけは私も知っている。
「嵐は強き樹を作る」
である。それからが、81年の歳月でかすれて良く読めないのだが、
「貧苦の暴……苛れても、支配階級……
 闘志は益々先鋭化し、最後の勝利……
 確信は……堅固となり、自由と平等……
 闘争の余暇を利して、胎内にある愛児のために
 吾が同志のもっとも良き後継者として
 来るべき新社会建設をこの机上より
 創造の一歩を発せし為に記す
  1930年3月20日 (祖父母の署名)」

父の名は「確」であり兄は「等」私は「信子」、みんなこの机から名付けられた。
もしも私に子供が授っていたなら、やはり一字もらっていたかもしれない。