風船空港2013年04月01日 02:19

さて夫・ドッコイ氏は南米に出張していたわけだが…
国際空港としては世界一標高の高い4千メートルである。
当然高山病対策が必要なのだが、酸素もスプレー缶では気圧差で破裂してしまう。
しかも、一人1本の高圧ボンベを用意できるくらい裕福な国ではない。
そこで体を高地に慣らす為に登場するのが、タラップを出た乗客ひとりひとりに手渡される厚手のふくらんだ風船である。
来国者は、そこで風船の中の気体を吸って吐いてしながら、地平線が丸く見える「世界見物」を、体慣らしにするのだ。
「右手に見える不揃いの小さな剣山みたいなのがN・Yデスネ」とガイドのお姉さん。
確かに目をこらせば、こしょこしょと、それらしきものが見える。気がする。
「左端の小さくつまんだようなのがフジヤマデスネ」「おおっ」
「ミナサンの背後に見える満月は、空気汚染もないのでこんなに輝くデスネ」「おおおっ」
産みたて卵のように輝く月が手に取るように見えたという。

ドッコイ氏は気がついた。
北東の地平に、「無数の触手の作り上げた広大な金色の野原」をふわふわ歩いている青き衣をまといし少女と、その肩にとまったトリのようなリスのような小動物を…
「あれは…」
係員に尋ねようとしてやっぱりやめたドッコイ氏・あと1ヶ月で51歳。
世代、である。やはり古き言い伝えはまことだったのである。
「帰国したら奥さんにお土産話としよう、フ、フフ、フ~…」
風船がパンと割れて、ドッコイ氏は4千メートルに馴染んだ体になったのであった。







2013/04/01・午前2時