攻メルモ逃ゲルモ2011年08月11日 19:33

Aちゃんは悪い娘(こ)じゃなかった。それは重々承知している。

新宿の厚生年金会館へ行く道すがら、彼女はいきなり
「もう私、レズかもしれないんですよっ!」
と叫んだのだ。聞けば生まれてこの方ひとりのボーイフレンドも持たないという。金融関係の職場は女子社員ばかりだし。
だからといって「レズ宣言」とは。
「今『レズ』は差別用語だから『ビアン』とか『レズビアン』とか言ったほうがいいよ。」
なんて口を挟める状態じゃない、彼女の頭からは湯気がシュンシュン立ち上っている。
まだ22~3、クリスマスに足元を威嚇射撃されるトナカイでもあるまいし、しかしな、「焦る年齢」ではあるよな、なーんておばちゃんは考えちゃったりする。
「Aちゃん、背筋伸ばして歩きなさい、次の曲がり角で出会う人があなたの運命の相手かもしれないんだよ。」
と言ってあげるのが精一杯。

次に会ったとき、彼女は満面の笑みを浮かべて
「私、声優学校に行くことに決めました!」
おい待て、あなたの声はくぐもってて、聞きづらいくらいだぞ。
「お勤めしながら?夜学?」
「いえ、仕事はもう辞めちゃいました!」
あっちゃー、手堅いとこだったんだけどなー。
「そこでね、先生の1人が『君には特別な才能があるようだから、オフの時僕の私塾へこないかい?』って声かけてくれて。」
うわっちゃー、そこも有料でしょ。
「払いましたよ、2百万。」
当然返金は無いわいな。
「御家族は?」
「お父さんは最初反対だったんですけれど(だろうね)、結局認めてくれて、親戚中に『今度ウチの娘が声優になった』って電話で。(待て待て、声優学校に入学するだけで、デビューもキャリアもまだじゃろうが)」
「お母さんは?」
「ウチ、ずっと外で買って来たおかずだったんですけれど、お料理教えてくれるって。子供の頃はお母さんの手作りで、すっごく美味しかったんですよ。」
あ、それはよかったね。

2年ほどたって彼女からメールが来て、
「お元気ですか。私はいまB.L(ボーイズラブ)の同人作家です!」

恋人ができたとは言ってこなかった。
声優になったとも言ってこなかった。

彼女の人生は、攻めているのだろうか、逃げているのだろうか。
私にはわからん。知らん、もう。